言語文化演習(アジアから見た日本)
【授業の概要と目的(何を学ぶか)】
中国や台湾、韓国などアジアの人々の対日イメージと日本人の自己イメージとの間には大きな懸隔があり、良好な近隣関係を築く上での障害となっている。この授業では「アジアから見た日本」をテーマに、これらの国や地域と日本との政治的関係や文化的交流の歴史を概観するとともに、アジアの人々の対日イメージに大きな影響を与えた事件や人物に焦点を当て、それらが当該国や地域の教育やテレビ・映画などを通じてどのように語り伝えられているかを学ぶ。
【到達目標】
アジアの人々の対日イメージがどのように形成されたかを理解し、日本とアジアという双方の視点から問題を考える力(「共感力」empathy)を養い、国際社会人として円滑な異文化間コミュニケーションを行う力を身につける。
【授業の進め方と方法】
今年度は春学期に日本と中国、秋学期に日本と朝鮮半島の関係史を学ぶ。
春学期には、ハーバード大学のエズラ・F・ヴォーゲルが第三者の視点から書いた『日中関係史』と高校の歴史教科書を比較しながら、グローバルな視点から日中の交流史を考えてみたい。
秋学期は、日本の歴史教育研究会と韓国の歴史教科書研究会が1997年から10年間にわたる共同作業を経て編纂した『日韓歴史共通教材・日韓交流の歴史』をテキストに、朝鮮半島の人々の対日イメージがどのように形成されたのかを考える。
また、これらの学習と並行して、アジアに関連したドキュメンタリー映像作品を制作する。一昨年度は朝鮮大学校に通う在日コリアンの学生さんに取材した映像作品を制作した。
課題や発表に対するフィードバックの方法としては、受講生全員が参加するLINEのグループを用意し、これを通じて全員または個別にフィードバックを行う。
【アクティブラーニング(グループディスカッション、ディベート等)の実施】
あり / Yes
【フィールドワーク(学外での実習等)の実施】
あり / Yes
【授業計画】
回 | 月日 | テーマ | 内容 | 新聞 | 輪読 |
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1 | 4/8 | ガイダンス | 一年間の学習目標と方法、計画について話し合う | ||
2 | 15 | 中国の日本文化への貢献―600~838年 | 遣隋使・遣唐使の時代、日本は中国から何を学んだのか、今日に残るその遺産について考える | 1 | 2 |
3 | 22 | 革新的な学びを伴わない貿易関係―838~1862年 | 最後の遣唐使が派遣されて以降、幕末に日中の政府関係者が再び顔をあわせるまでの1000年の日中関係史を概観する | 3 | 4 |
4 | 5/6 | 西洋諸国への対応と関係再開―1839~1882年 | アヘン戦争後の西洋諸国の進出に対する日中の対応と、明治維新後の日中関係について考える | 5 | 6 |
5 | 13 | 朝鮮をめぐる競争と日清戦争―1882~1895年 | 日清戦争の発端となった壬午軍乱から下関条約、三国干渉に至るまでの朝鮮・日本・中と、この戦争が中国に与えた衝撃について考える | 7 | 1 |
6 | 20 | 日本に学ぶ中国の近代化―1895~1937年 | 日清戦争の敗北後、日本を手本として近代化を進めた中国と、日本の対応について考える。 | 2 | 3 |
7 | 27 | 台湾と満州の植民地化―1895~1945年 | 台湾の植民地化と、傀儡国家満州国ができるまでの経緯と、それらが今日に残した遺産について考える | 4 | 5 |
8 | 6/3 | 政治的混乱と戦争への道―1911~1937年 | 辛亥革命後の中国の政治的混乱と日中戦争に至るまでの日中関係を考える | 6 | 7 |
9 | 10 | 日中戦争―1937~1945年 | 1937年から45年まで8年に及んだ日中戦争とそれが残した負の遺産について考える | 1 | 2 |
10 | 17 | 大日本帝国の崩壊と冷戦―1945~1972 | 1945年の終戦から、1972年の日中国交正常化に至るまでの日中関係を考える | 3 | 4 |
11 | 24 | 協力―1972~1992年 | 中国の「改革開放」政策と日本の経済協力について考える | 5 | 6 |
12 | 7/1 | 日中関係の悪化―1992~2018年 | 7 | 1 | |
13 | 8 | 新時代に向かって―2014年~ | 現代の日中関係の課題とその解決策について考える | 2 | 3 |
14 | 15 | 春学期のまとめ | 春学期の学習を振り返り、どのような新たな知見を得たかを話し合う | 4 | 5 |
回 | 月日 | テーマ | 内容 | 新聞 | 輪読 |
15 | 9/23 | 日韓の和解のために | 朴裕河『和解のために』とは ・大震災のあとに、未来を考える ・はじめに ・日本語版あとがき ・(解説)あえて火中の栗を拾う ・(解説)和解のために降りる |
1 | 2 |
16 | 30 | 教科書問題① | 第一章 一、日本の「反省」と新しい歴史教科をつくる会 二、反省する戦後日本 三、「つくる会」の不満 |
3 | 4 |
17 | 10/7 | 教科書問題② | 第一章 四、韓日双方の対応の問題点 五、「事実」と倫理 六、「つくる会」と民族主義 七、「愛国心」を超えて |
5 | 6 |
18 | 14 | 教科書問題③ | 〔調査発表〕 教科書問題の歴史と現状について |
7 | 1 |
19 | 21 | 慰安婦問題① | 第二章 一、「慰安婦はなかった」のか 二、日本政府の対応と「女性のためのアジア平和国民基金」 三、「道義的」責任の意義と限界 |
2 | 3 |
28 | 大学祭による休講 | ||||
20 | 11/4 | 慰安婦問題② | 四、韓国の不信 五、韓国の内なる責任 六、韓国のなかの加害性 七、「国家」を超えて |
4 | 5 |
21 | 11 | 慰安婦問題③ | 〔調査発表〕 慰安婦問題の歴史と現状について |
6 | 7 |
22 | 18 | 靖国問題① | 第三章 一、小泉首相の「反戦」の意志 二、靖国と戦後日本 三、被害意識としての靖国支持 |
1 | 2 |
23 | 25 | 靖国問題② | 第三章 四、「国家のための死」と守られるべきもの 五、韓国の矛盾、国立墓地 六、被害者としての軍人 七、「謝罪」する追悼 |
3 | 4 |
24 | 12/2 | 靖国問題③ | 〔調査発表〕 靖国問題の歴史と現状について |
5 | 6 |
25 | 9 | 領土問題① | 第四章 一、ふたつの独島ものがたり(一) 二、所有の政治学 三、ふたつの独島ものがたり(二) |
7 | 1 |
26 | 16 | 領土問題② | 第四章 四、領土拡張の欲望と近代 五、ふたつの独島ものがたり(三) 六、アメリカというファクター |
2 | 3 |
27 | 23 | 領土問題③ | 第四章 七、警戒心と表象 八、島根県と独島 九、境界民の思考のために 十、独島の主は誰か |
4 | 5 |
28 | 1/20 | まとめ | 第五章 一、近代がもたらした四つの問題 二、本質主義を超えて 三、新たな批判のために 四、韓日協定と日本の選択 五、冷戦の構図のなかの韓国と日本 六、「国民」を超えて |
6 |
【授業時間外の学習(準備学習・復習・宿題等)】
・発表者は、テキストの内容をまとめるだけでなく、それを補充あるいは反証する資料を紹介し、論理的思考と批判的思考をもって実証的な発表ができるよう準備する
・発表者以外は、テキストの当該箇所を精読するとともに、他の関連資料も事前に参照して、発表後のディスカッションに積極的に参加できるように準備する。
本授業の準備学習・復習時間は各2時間を標準とします。
【輪読図書】
【春学期】
・エズラ・F・ヴォーゲル著・益尾知佐子訳『日中関係史―1500年の交流から読むアジアの未来』(日本経済新聞出版社、2019年)
【秋学期】
・朴裕河著・佐藤久訳『和解のために 教科書・慰安婦・靖国・独島』(平凡社ライブラリー、2011年)
【参考書】
【春学期】
・本⽥勝⼀著『南京への道』(朝⽇⽂庫、1989年年)
・笠原十九司『南京事件論争史―日本人は史実をどう認識してきたか』(平凡社新書、2007年)
【秋学期】
・内海愛子『戦後補償から考える日本とアジア』(山川出版社、2002年)
・孫崎享『日本の国境問題―尖閣・竹島・北方領土』(ちくま新書、2011年)